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吹奏楽の曲名はなぜ読めない?難読漢字と謎の横文字だらけ問題

吹奏楽コンクールのプログラムを眺めていると、時々こんなことが起こります。

曲名が読めない。

いや、正確に言えば、漢字は見えているのに読み方がわからない。

さらに困るのが、やたらと長い横文字のタイトル。

「吹奏楽の作曲家って、わざと難しいタイトルをつけてない?」

《科戸の鵲巣》《天雷无妄》《斐伊川に流るるクシナダ姫の涙》。

どうでしょう。

初見で全部読める人は、かなりの吹奏楽通ではないでしょうか。

そもそも、なぜ吹奏楽の曲名にはこんなに難しい漢字や長い外国語が登場するのでしょうか。

調べてみると、意外と面白い理由が見えてきました。

目次

《科戸の鵲巣》、そもそも何と読む?

最初に紹介したいのが、中橋愛生作曲《科戸の鵲巣》。

読み方は「しなとのじゃくそう」です。

……読めないですよね。

でも、これにはちゃんと意味があります。

「科戸」は、風が起こる場所を表す言葉。

「鵲巣」は、カササギの巣のことです。

作品の解説によると、カササギが風の状態を知って巣を作るという伝承と、風に関する日本語を組み合わせたタイトルになっています。

作品は、祝福された未来へ向かう序曲という意味を持っています。

つまり、意味もなく難しい漢字を並べているわけではありません。

日本語や中国の古典的な表現を使って、作品の世界観を表現しているのです。

とはいえ、曲名を聞いただけでそこまで理解できる人は、そう多くないでしょう。

《天雷无妄》は、さらに難しい

次は天野正道作曲《天雷无妄》。

読み方は「てんらいむもう」。

タイトルの言葉は、中国の古典『易経』に登場する六十四卦のひとつです。

「无妄」には、自然のまま、作為のない状態といった意味があります。

ちなみに、普通の日本語なら「無妄」と表記したくなるところですが、この作品では「无」という漢字が使われています。

曲名だけでも、なかなかの迫力です。

ただし、この作品について、作曲家がなぜこの言葉をタイトルに選んだのか、その詳しい意図までは今回確認できませんでした。

意味のある古典的な言葉を使っていることと、作曲家自身の狙いがわかっていることは別です。

《斐伊川に流るるクシナダ姫の涙》は、もはや国語の教材

一方、長い日本語タイトルの代表格といえば、樽屋雅徳作曲《斐伊川に流るるクシナダ姫の涙》。

「斐伊川」は「ひいかわ」と読みます。

名前からして、いかにも物語がありそうです。

実際、この作品は『古事記』の出雲神話を題材にしています。

八岐大蛇に生け贄として差し出されようとするクシナダ姫と、それを救おうとするスサノオの物語。

出版社の解説では、作品がこの神話のヒロインであるクシナダ姫に焦点を当てていることが説明されています。

つまり、この長いタイトルは、作品の内容をそのまま伝えているともいえます。

難しい漢字が好きだから、というだけの理由ではないのです。

そして、外国語のタイトルが長すぎる問題

さて、漢字だけでも大変なのに、吹奏楽には長い外国語タイトルもあります。

例えば天野正道作曲の、

《パラフレーズ・パァ〈スタティック・エ・エクスタティック〉アヴェック・アン・プロローグ・エ・レピローグ》

……長い。

曲名を読み上げるだけで息が切れそうです。

でも、これは実在する作品。

国立音楽大学附属図書館などが所蔵する楽譜の書誌情報にも、このタイトルが記載されています。

原題はフランス語で、前奏と後奏を伴うパラフレーズという構成を示す言葉が含まれています。

もちろん、作曲家がなぜフランス語の長いタイトルを採用したかは別問題です。

ただ、外国語の音楽用語を組み合わせることで、曲の性格や構成を表現する方法もあるわけです。

それにしても、コンクールの司会者は大変そうです。

実は、簡単なタイトルが海外で変わることもある

ここで、少し意外なエピソードを紹介します。

酒井格作曲《たなばた》。

吹奏楽の定番作品として知られる、非常に親しみやすいタイトルです。

ところが、作品の原題は英語の《The Seventh Night of July》。

2024年に発売された酒井格作品集では、作曲当時の正式な英語タイトルを尊重し、初期稿の曲名にもこの表記が使用されています。

つまり、現在よく知られる日本語タイトルと、もともとの作品名が必ずしも同じとは限りません。

《たなばた》は、日本では日本語のタイトルで親しまれていますが、海外では英語タイトルでも知られています。

作品が国を越えて広まると、曲名の表記や呼び方まで変化することがあるのです。

そもそも、曲名は音楽の一部なのか?

ここまでいろいろな曲名を見てきました。

神話や伝説を題材にした作品。

古典的な言葉を使った作品。

外国語によって曲の構造を説明した作品。

調べてみると、タイトルが単なる飾りではないことがわかります。

作曲家が作品で表現したい世界を、曲名そのものに込めている場合があるのです。

一方で、吹奏楽の演奏者や聴衆にとって、曲名は作品を見つけるための情報でもあります。

読めない。覚えられない。検索するときに漢字がわからない。

そんな問題も起こります。

難しいタイトルには、作品の魅力を深める面と、わかりにくくする面の両方があるのでしょう。

結局、吹奏楽の曲名はなぜ難しいのか?

今回調べてみると、難しい曲名には意外とちゃんとした意味がありました。

神話の登場人物を表すため。

古典的な言葉を引用するため。

作品の構成や音楽的な性格を伝えるため。

あるいは、海外での出版や演奏に合わせて表記が変わることもあります。

もちろん、すべての難しいタイトルに同じ理由があるわけではありません。

でも、最初は意味不明だった曲名が、作品の背景を知ると急に魅力的に見えてくることもあります。

曲名が難しいのは、単に作曲家が格好つけているからとは限らないのです。

……それはわかった。

でも、お願いだから、せめて初めて見る漢字にはフリガナを振ってほしい。


主な参考資料

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