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吹奏楽部はなぜブラックと言われる?長時間練習と青春の美談

吹奏楽部の練習風景を思い浮かべてみてください。

朝は授業前に朝練。

昼休みには音楽室で個人練習。

放課後はパート練習と合奏。

土曜日も日曜日も、もちろん練習。

そして夏休みには、朝から夕方までコンクールに向けた練習が続きます。

……ちょっと待ってください。

「この人たち、いつ休んでるの?」

吹奏楽部といえば、青春、友情、努力、感動。

コンクールに向けて仲間と頑張り、最後は涙を流しながら抱き合う。

そんなイメージがあります。

でも、冷静に考えてみると、これほど長時間の活動が当たり前になっている部活動も、なかなか不思議ではないでしょうか。

しかも、吹奏楽部は一応「文化部」です。

「文化部なのに、どうして運動部より体育会系なの?」

今回は、吹奏楽部が「ブラック部活」と呼ばれる理由を調べてみました。

すると、想像以上に過酷な練習の実態と、それを支えてきた吹奏楽界独特の文化が見えてきました。

目次

吹奏楽部の約半数が、土曜日に5時間以上練習していた

まず、実際の数字から見てみましょう。

2018年、文化庁は文化部活動の実態に関するアンケート調査を行いました。

調査対象は、文化部活動で顕著な活動実績を持つ中学校・高等学校。

68校、359の文化部から回答が集まりました。

そのうち、吹奏楽部は27団体です。

結果はなかなか衝撃的でした。

調査項目吹奏楽部の割合
平日5日間すべて活動59.3%
土曜日に5時間以上活動48.1%

なんと、回答した吹奏楽部の半数近くが、土曜日だけで5時間以上活動していたのです。

しかも、この調査では、土曜日と日曜日の両方で7時間以上活動している吹奏楽部が4団体ありました。

長期休業中には、週7日・1日7時間以上活動する吹奏楽部も2団体確認されています。

つまり、夏休みなのに毎日練習。

しかも、1日7時間以上。

「それ、もう夏休みじゃなくて勤務じゃない?」

思わずそんなことを言いたくなります。

ただし、この調査は文化活動の実績が高い学校を中心に実施されたものです。

全国すべての吹奏楽部の平均を示すものではありません。

それでも、実際にこれほど長時間の活動を行っていた吹奏楽部があったことは、文化庁の調査で確認できます。

年間360日、吹奏楽部にいた人もいる

では、実際に吹奏楽部で活動していた人は、どう感じていたのでしょうか。

2018年、週刊誌『日刊SPA!』が、吹奏楽部の過酷な活動について取材しています。

登場するのは、中高一貫校で6年間吹奏楽部に所属していた女性です。

本人によると、当時は年間約360日も部活動をしていたそうです。

朝7時から練習し、夜21時まで自主練習することもありました。

さらに、真夏の冷房がない部屋で練習を続け、何度も倒れた経験まで語っています。

もちろん、これは取材に応じた個人の体験談です。

しかし、これほどの生活を送っていた人がいるというのは、なかなか驚きです。

そして興味深いのが、本人にとっては、それが当たり前の生活になっていたこと。

部活動の過酷さが話題になっても、自分たちにとっては普通だと感じていたそうです。

ここに、ブラック部活動の厄介なところがあるのかもしれません。

大変な活動も、毎日続けていると、それが普通になってしまうのです。

なぜ吹奏楽部は、こんなに長時間練習するのか?

そもそも、吹奏楽はなぜ練習時間が長くなりやすいのでしょうか。

理由のひとつは、合奏という活動の特徴にあります。

吹奏楽では、個人の演奏技術だけでは良い音楽になりません。

自分のパートを練習し、パート全体で揃え、最後に合奏で合わせる。

音程やリズム、音量のバランスなど、何十人もの演奏をひとつにまとめる必要があります。

しかも、全員が揃わなければ確認できないことも多くあります。

さらに、コンクールが近づくと練習の密度は高まります。

2022年、女性週刊誌『女性自身』が取材した部活動問題の専門家は、吹奏楽部が長時間活動しやすい背景として、集団で演奏する特徴や、室内で活動できることなどを挙げています。

確かに、吹奏楽は天候に左右されにくい活動です。

雨が降っても音楽室で練習できます。

暑い日も寒い日も、学校の設備が使えれば合奏を続けられます。

もちろん、だからといって長時間練習を続けても問題がないわけではありません。

しかし、活動を続けられる環境が整っているために、練習時間がどんどん長くなってしまうことは考えられます。

「みんな頑張ってるのに、自分だけ休むの?」

もうひとつ、吹奏楽部ならではの難しさがあります。

それが、休みにくさです。

吹奏楽は集団で音楽を作る活動です。

誰かが欠席すれば、そのパートの音が欠けることがあります。

特に人数が少ない学校では、ひとりが休むだけで合奏に大きな影響が出ることもあります。

そこで生まれやすいのが、こんな雰囲気です。

「みんな頑張っているんだから」

「コンクールが近いんだから」

「ここで休んだら迷惑がかかる」

もちろん、こうした言葉が実際にすべての学校で使われているわけではありません。

でも、合奏という活動には、個人の都合より集団を優先しやすい構造があります。

2022年に『女性自身』の取材を受けた専門家も、吹奏楽部について、集団としての一体感が求められる一方、同調圧力が強くなりやすいことを指摘しています。

自分が休めば、誰かに迷惑がかかる。

そう考えてしまうと、体調が悪くても、疲れていても、休みを申し出にくくなるかもしれません。

楽器は好き。でも、部活は休みたい。

そんな気持ちを持つことさえ、悪いことのように感じてしまう。

吹奏楽部のブラックさは、単純な練習時間の長さだけではないのでしょう。

「好きで入ったんでしょ?」という最強の言葉

部活動の過酷さを語るとき、よく登場するのがこの考え方です。

「嫌なら辞めればいい」

確かに、吹奏楽部は基本的に自分の意思で参加する活動です。

でも、入部するときに、3年間の活動すべてを理解している生徒がどれほどいるでしょうか。

入ってみたら、想像以上に練習時間が長かった。

人間関係が思っていた以上に大変だった。

勉強や家庭生活との両立が難しくなった。

そんなこともあるはずです。

2022年に『Number Web』が実施した退部経験者へのアンケートでは、吹奏楽部を途中で辞めた女性の体験談が紹介されています。

その女性は、強豪校の吹奏楽部に入りましたが、朝夕の厳しい練習と勉強の両立、精神的な負担に耐えきれず退部しました。

興味深いのは、辞めたあとも後悔や劣等感、友人への罪悪感を抱いていたことです。

つまり、辞めればすべて解決するという単純な話ではありません。

吹奏楽を続けたい気持ちもある。

でも、今の活動は苦しい。

その両方が存在するのです。

実は、先生もブラックだった

ここまで生徒の話をしてきましたが、吹奏楽部にはもうひとつ大きな問題があります。

それが顧問の先生です。

2024年11月、『東洋経済オンライン』は、公立中学校で働く音楽科教員の体験を紹介しました。

その教員は、音楽の先生という理由で吹奏楽部の主顧問を任されてきたそうです。

しかも、仕事は音楽指導だけではありません。

練習計画の作成、会計、部員同士のトラブル対応、保護者との連絡。

土曜日や日曜日も、部活動のために出勤することになります。

記事では、顧問を辞められるならお金を払ってもいいと感じるほどの負担が語られています。

なかなか強烈な話です。

生徒は「吹奏楽が好きなんだから」と練習する。

一方、先生は「音楽の先生なんだから」と指導を任される。

どちらも本人が心から望んでいるとは限らないのです。

ちなみに、2018年の文化庁の調査には、顧問の先生たちによる自由記述も収録されています。

そこには、部活動が本来の職務ではないにもかかわらず、顧問になることを強いられ、さらに研修まで求められる状況への不満が記されていました。

つまり、吹奏楽部の長時間活動を支えている先生自身も、その仕組みに苦しんでいる場合があるのです。

でも、過度な活動は笑い話だけでは済まない

吹奏楽部の長時間活動については、深刻な問題が指摘された事例もあります。

2018年、千葉県の柏市立柏高等学校で、吹奏楽部に所属する生徒が亡くなりました。

その後、柏市の第三者委員会が調査を実施。

2022年にまとめられた報告では、生徒が複数の悩みを抱えていたことに加え、長時間の部活動によって精神的な余裕が失われていたことが指摘されました。

直接の原因をひとつに特定したものではありません。

一方、調査結果を受けた柏市教育委員会は、過密な部活動スケジュールの見直しや、学業と部活動のバランスの改善などに取り組みました。

この事例が示しているのは、部活動の長時間化が単に「ちょっと大変だった」という思い出だけでは済まない場合もあるということです。

音楽活動であっても、生活のすべてを占めるほどの負担になれば、深刻な問題につながり得るのです。

実は国も「週11時間程度にして」と言っている

ここで、国の方針を確認してみましょう。

2025年12月、文部科学省は新たな「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」を策定しました。

2026年度からの部活動改革を進めるためのものです。

このガイドラインでは、学校部活動や地域クラブ活動について、日常的な活動時間と休養日の目安が示されています。

項目国が示す目安
平日の活動1日2時間程度
休日の活動1日3時間程度
休養日週2日以上
週間の活動時間11時間程度

大会への参加など、特別な事情がある場合には一定の例外も想定されています。

ただし、日常的に朝から晩まで練習することを前提にしたものではありません。

考えてみると、なかなか大きな変化です。

かつては夏休みに1日7時間以上練習する団体も確認されていました。

しかし国は、長時間練習を続けるのではなく、合理的で効率的な活動を進める方向へ舵を切っています。

「たくさん練習すること」自体が、努力の証明とは限らないという考え方が、部活動の制度にも反映されているのです。

2026年から、部活動そのものが変わり始めている

さらに現在、学校の部活動には大きな変化が起きています。

それが、部活動の地域展開です。

2026年度から2031年度までの6年間は、国が定めた「改革実行期間」。

休日の学校部活動については、地域クラブなどで活動できる仕組みへの展開を目指しています。

背景には、少子化による部員数の減少や、教員の長時間労働などがあります。

ただし、吹奏楽の場合はそう簡単ではありません。

管楽器や打楽器など、多くの楽器が必要です。

楽器を保管する場所や、合奏に使う広い練習室も欠かせません。

さらに、演奏指導のできる人材や、楽器の修理・管理、活動費用の問題もあります。

2026年に公表された国立音楽大学大学院の研究でも、地域展開における指導者、活動場所、楽器管理、費用負担などが課題として挙げられています。

つまり、学校の先生から地域の指導者へ交代すれば、すべて解決するというわけではありません。

それでも、これまで学校と顧問の先生が抱えてきた負担を、地域全体で支えようとする動きが始まっているのです。

なぜ長時間練習は「青春の美談」になってしまうのか?

さて、ここまで調べてきて、最後に残るのがこの疑問です。

どうして吹奏楽部では、これほど過酷な活動が美しい思い出として語られてきたのでしょうか。

その理由のひとつは、長時間の練習が成果や感動と結びつきやすいことかもしれません。

毎日遅くまで練習した。

休みの日も学校に通った。

何度も悔しい思いをした。

そして最後に、仲間とともにコンクールの舞台に立った。

こうした経験には、確かに大きな達成感があります。

苦労したからこそ、演奏が成功したときの喜びも大きくなるのでしょう。

でも、ここには少し厄介な問題があります。

「苦労したから感動した」と「苦労するほど良い」は、同じではないのです。

毎日練習したことが思い出になったとしても、毎日練習することが最善だったとは限りません。

休みを削って頑張ったからといって、休みを削ることそのものが正しいわけでもありません。

そして何より、そうした活動を楽しめた生徒がいる一方、途中で苦しくなってしまった生徒もいます。

吹奏楽部の青春が美しいのは、苦しい練習をしたからだけではないはずです。

仲間と音楽を作り上げる喜びや、演奏会でお客様から拍手をもらう感動。

そうした経験そのものにも、大きな価値があるのです。

結局、吹奏楽部はなぜブラックと言われるのか?

今回、文化庁の調査や元部員の証言、教員への取材、国の方針を調べてみると、吹奏楽部がブラックと言われる理由が見えてきました。

まず、活動時間が長くなりやすいこと。

個人練習、パート練習、合奏を重ねるうちに、練習時間が増えていきます。

さらに、集団で演奏するため、個人の都合で休みにくい雰囲気が生まれることもあります。

そして、顧問の先生自身も、長時間の活動やさまざまな運営業務を担っています。

こうした状況が、「みんな頑張っている」「コンクールのためだから」という言葉で当たり前になってしまう。

そこに、吹奏楽部のブラックさがあるのでしょう。

もちろん、長時間の練習を自ら望み、充実した経験として受け止めている生徒もいます。

仲間とともにひとつの音楽を作り上げる喜びは、吹奏楽ならではのものです。

ただ、その素晴らしさと、過酷な活動を続けることは別の話です。

吹奏楽部の青春は、確かに美しい。

でも、その青春を美談にするために、誰かが無理をし続ける必要はないはずです。

楽器を演奏することが好きだった。

仲間と音楽を作るのが楽しかった。

そんな思い出が残ることこそ、吹奏楽部の一番の魅力なのではないでしょうか。


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