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吹奏楽コンクールの課題曲は誰が決めている?選考の裏側と意外なお金の話

毎年、全国の吹奏楽部員が練習するコンクールの課題曲。

「今年はマーチが多い」「この曲は難しすぎる」「どうしてこの曲が選ばれたの?」

課題曲が発表されるたびに、そんな感想が飛び交います。

でも、そもそも不思議ではないでしょうか。

全国の吹奏楽部員が演奏する課題曲は、いったい誰が決めているのでしょうか?

全日本吹奏楽連盟の偉い人が選んでいるのか。それとも、作曲家たちが話し合って決めているのか。

実際に調べてみると、選考には意外と複雑な仕組みがありました。

しかも、応募料や賞金、著作権の取り扱いまで調べてみると、普段はなかなか見えない課題曲の裏側が浮かび上がってきます。

目次

課題曲は、作曲家が勝手に持ち込んでいるわけではない

現在の全日本吹奏楽コンクール課題曲には、大きく分けて2つの選ばれ方があります。

ひとつは、作曲家が作品を応募する「公募」。

もうひとつは、全日本吹奏楽連盟が作曲家に新しい作品を依頼する「委嘱」です。

公募には、全日本吹奏楽連盟と朝日新聞社が主催する「朝日作曲賞」という仕組みがあります。

一方、委嘱作品は連盟が作曲家を選び、その作曲家に課題曲を書いてもらいます。

例えば2026年度の課題曲4作品は、次のような内訳でした。

課題曲作曲者選ばれ方
Ⅰ《夕映えの丘》森山至貴朝日作曲賞
Ⅱ《ザ・ガーズ》星出尚志委嘱
Ⅲ《あつまれ おもちゃのマルチャ!》伊藤士恩公募入選
Ⅳ《管楽器のためのフィナーレ》伊藤康英委嘱

つまり、すべての課題曲が同じ方法で選ばれているわけではありません。

では、公募の場合、実際に誰が審査しているのでしょうか。

審査員の名前は、実は公表されている

朝日作曲賞の募集要項には、審査員の名前が記載されています。

2027年度課題曲を対象とした第36回朝日作曲賞では、次の3人の作曲家が審査員に名を連ねていました。

天野正道、中橋愛生、福島弘和。

さらに、全日本吹奏楽連盟と朝日新聞社の代表者も審査員に含まれています。

そして審査は、なんと3段階。

最初はスコアによる審査。

続いて、スコアと音源を使用した審査。

最後は、実際に演奏して確かめる「試奏」による審査です。

つまり、楽譜を見て「いい曲ですね」と決めるだけではありません。

実際に吹奏楽で演奏したとき、どのように響くのかまで確認される仕組みになっています。

ちなみに、募集要項には審査がすべて非公開であることも明記されています。

審査員の名前や方法は公開されている一方、個々の作品がどのように評価されたのか、その詳細は一般には公開されていません。

課題曲に応募するには、実は1万円かかる

もうひとつ、募集要項を見ていて気になるのがお金の話です。

2027年度課題曲の公募では、応募料が1作品につき1万円と定められていました。

応募資格は特に設けられておらず、1人1作品まで応募できます。

では、選ばれるとどうなるのでしょうか。

朝日作曲賞の賞金は100万円。

さらに、入選作品には30万円が贈られます。

公募に挑戦する作曲家にとっては、決して小さくない金額です。

ただし、応募したからといって、どんな曲でも審査してもらえるわけではありません。

演奏時間は3分程度から4分以内。

未発表・未出版のオリジナル作品であること。

そして、高度な技術を要するパッセージ、無理な音域、特殊奏法などを避けるよう求められています。

ここが課題曲の難しいところです。

作曲家が自由に好きな曲を書けばいいというわけではありません。

全国の中学生から一般の吹奏楽団体まで、幅広い演奏者が取り組むことを想定した作品が求められているのです。

しかも、選ばれた曲は後から直されることもある

さらに面白いのが、入賞作品の取り扱いです。

第36回朝日作曲賞の募集要項には、入賞作品について、試奏や楽譜制作、収録の段階で部分的な手直しを求める場合があると記載されています。

それだけではありません。

入賞作品を補作する場合があることまで明記されています。

つまり、応募された作品が、必ずしもそのままの形で課題曲になるとは限らないのです。

楽譜として完成していても、実際に演奏した結果、修正が必要になることは考えられます。

また、課題曲はその年に多くの団体が演奏する作品です。

楽譜の読みやすさや合奏の成立しやすさなど、作品そのものの面白さとは別の条件も重要になります。

課題曲の選考は、優れた新作を探すだけでなく、全国の演奏団体が取り組める作品として仕上げる工程でもあるのでしょう。

委嘱する作曲家は、理事会で投票して決めていた

では、もうひとつの選ばれ方である「委嘱」はどうでしょうか。

実は、その決定過程の一部が連盟の会報に掲載されています。

2024年3月19日に行われた理事会では、2026年度課題曲を委嘱する作曲家について審議が行われました。

会議報告によると、担当部長から提案があり、理事による投票の結果、伊藤康英と星出尚志の2人への委嘱が承認されています。

2026年度の課題曲に《ザ・ガーズ》と《管楽器のためのフィナーレ》が登場した背景には、こうした理事会の決定があったわけです。

しかも、決められたのは課題曲が使用される約2年前。

私たちが翌年の課題曲を気にしているころには、そのさらに先の課題曲の準備も進んでいるのです。

課題曲の選考方法は、昔から同じだったわけではない

課題曲の歴史を調べてみると、現在の仕組みが最初から存在していたわけではないこともわかります。

コンクール初期には、既存の行進曲や海外作品などが課題曲として使われていました。

1966年度からは連盟による委嘱作品が登場。

1972年度には作品公募が始まりました。

そして1990年に朝日作曲賞が創設され、翌1991年度から受賞作品が課題曲に採用されるようになります。

課題曲の形式も変化しています。

1993〜2007年度には、奇数年はマーチ、偶数年はマーチ以外の作品という仕組みが採用されていました。

その後、2008年度からはマーチとマーチ以外の曲を組み合わせる方式に戻ります。

つまり、現在の課題曲の選ばれ方は、長い歴史の中で何度も変わってきたものなのです。

2027年度には、49年ぶりの海外作曲家が登場

最近の課題曲には、もうひとつ大きな変化があります。

2027年度の課題曲として、アメリカの作曲家ロバート・シェルドンの《Ascending the Snowcapped Peaks》が選ばれました。

実は、海外の作曲家への課題曲委嘱は、1978年度のロバート・ジェイガーとW.F.マクベス以来、49年ぶり。

連盟の石津谷治法理事長は2026年の会報で、今後も海外作曲家への委嘱を継続的に検討していく考えを示しています。

この年は、長生淳の《アルメリア》も委嘱作品として採用。

朝日作曲賞受賞作品と公募入選作品を合わせた4曲が発表されています。

課題曲の作曲家を選ぶ方針そのものが、少しずつ変わろうとしているのかもしれません。

そして2028年度、朝日作曲賞の公募がなくなる?

ここで、さらに大きなニュースがあります。

全日本吹奏楽連盟は、2028年度の課題曲4曲をすべて委嘱作品にすると発表しました。

そのため、2028年度課題曲を対象とする朝日作曲賞の公募は行われません。

長く続いてきた公募が、なぜ休止されるのでしょうか。

理由は、2028年度が全日本吹奏楽連盟の創立90周年に当たるためです。

2026年7月発行の連盟会報によると、この特別な年度に限り、4曲すべてを委嘱作品とする方針が示されています。

そのうち1曲は海外の作曲家への委嘱を目指すとされ、発表当時は交渉段階にあることも明かされていました。

つまり、朝日作曲賞そのものを廃止するという発表ではありません。

創立90周年に合わせた、特別な課題曲の構成ということです。

ちなみに、過去には1977年度のように全曲が委嘱作品だった年もあります。

全曲委嘱という方式が、まったく初めて登場するわけではないのです。

課題曲の著作権は、いったん連盟のものになる

最後に、もうひとつ興味深い仕組みを紹介します。

朝日作曲賞の募集要項には、入賞作品の著作権についても規定があります。

第36回朝日作曲賞では、入賞作品の著作権が2026年7月25日から2028年12月31日まで、全日本吹奏楽連盟に帰属することになっています。

そのため、受賞者は著作権譲渡契約を結びます。

ただし、永久に譲渡するという話ではありません。

期間が終了すると、著作権は作曲者へ返却されると定められています。

課題曲は、受賞した作曲家がすぐに自由に出版・販売できる作品とは限らないのです。

その年に全国で演奏される課題曲として、楽譜制作や録音、販売などが一括して行われる仕組みになっています。

こうした権利関係も、普通に課題曲を演奏しているだけではなかなか知る機会がありません。

結局、課題曲は誰が決めているのか?

ここまで調べてみると、課題曲の選考は想像以上に組織的な仕組みで行われていました。

公募作品については、作曲家や連盟・朝日新聞社の代表者による審査があり、スコアや音源、実際の演奏を通して選ばれます。

一方、委嘱作品については、連盟の理事会などで作曲家を選定し、新しい作品の制作を依頼しています。

そして、入賞作品も必要に応じて修正され、全国の演奏団体に提供される課題曲として完成していきます。

さらに近年は、委嘱作品の増加や海外作曲家の起用など、課題曲の作り方自体にも変化が起きています。

つまり、課題曲は特定の誰かひとりの好みで決まっているわけではありません。

作曲家による公募、専門家による審査、連盟による委嘱や方針決定を通じて生まれているのです。

毎年何気なく演奏している課題曲。

その1曲が生まれるまでには、私たちが思っている以上に多くの人が関わっているようです。


主な参考資料

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