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吹奏楽コンクールの金賞は審査員の好みで決まる?採点の裏側

吹奏楽コンクールの結果発表。

「ゴールド、金賞!」という声に歓声が上がる一方、納得できない結果に首をかしげた経験がある人もいるのではないでしょうか。

「あの学校が銀賞で、こっちが金賞なの?」

「審査員によって結果が変わるんじゃない?」

「そもそも、金賞と銀賞の違いって何?」

吹奏楽コンクールには、昔から審査に関するさまざまな噂があります。

でも、実際のところ、審査員は何を聴いているのでしょうか。

そして、金賞・銀賞・銅賞はどうやって決まっているのでしょうか。

今回は全日本吹奏楽連盟の公式規定を調べてみました。

すると、2026年から全国大会の採点方法が大きく変更されていたことが判明。

さらに調査を進めると、「演奏順が早いと不利」という噂を統計的に検証した、かなり興味深い研究まで見つかりました。

目次

そもそも、審査員は誰が選んでいるのか?

まず気になるのが、審査員の正体です。

全日本吹奏楽コンクールの全国大会では、原則として9人の審査員が演奏を評価します。

審査員を選ぶのは、全日本吹奏楽連盟の理事会。

理事会で選出された人物を、理事長が委嘱する仕組みです。

では、実際にどんな人が審査しているのでしょうか。

2026年の全国大会・高等学校の部を見てみましょう。

審査員には、NHK交響楽団のホルン奏者・今井仁志、東京佼成ウインドオーケストラのフルート奏者・丸田悠太、東京音楽大学の作曲家・中橋愛生など、9人が名を連ねています。

管楽器・打楽器の演奏家に加え、作曲家も参加していました。

つまり、審査員は必ずしも吹奏楽指導者だけではありません。

オーケストラや吹奏楽団の演奏家、音楽大学の教員、作曲家など、異なる専門分野の音楽家が審査を担当しています。

そう考えると、ひとつ気になることがあります。

専門とする楽器や音楽経験が違えば、演奏の聴き方も違うのではないでしょうか。

実際、何を基準に金賞を決めている?

全日本吹奏楽連盟は、全国大会における審査の観点を公表しています。

2026年度の説明では、美しく豊かな響きを生み出す奏法や、楽譜を読み取った音楽表現が重視されています。

具体的には、ブレス、発音、音程、リズム、ハーモニー、フレーズ、バランスなどです。

さらに注目したいのが、音楽表現を積極的に聴き取るという方針。

単に音を間違えなければ高得点になるわけではありません。

演奏技術だけでなく、作品をどのように表現しているかも評価の対象なのです。

ただ、ここには数字だけでは割り切れない難しさがあります。

音程やリズムの正確さは比較的確認しやすい一方、音色の美しさや音楽表現の魅力には、聴く人の判断が入ります。

例えば、力強く華やかな響きを好む審査員もいれば、繊細な音色や緻密な音楽づくりを重視する審査員もいるかもしれません。

同じ演奏を聴いても、全員がまったく同じ評価をするとは限らないのです。

だからこそ、全国大会では複数の審査員によって評価する仕組みが採用されています。

2026年、金賞の決め方が大きく変わった

ここからが今回の調査で特に面白かったところです。

実は、全国大会の審査方法は2026年に変更されています。

新しい審査方法では、課題曲と自由曲を、それぞれ「技術」と「表現」に分けて採点します。

それぞれ10点満点なので、1人の審査員による配点は次のようになります。

審査項目配点
課題曲・技術10点
課題曲・表現10点
自由曲・技術10点
自由曲・表現10点
合計40点

原則9人の審査員がいるため、合計すると360点満点になります。

そして、各審査員の点数を合計し、得点の高い順に賞を決定します。

その基準が、おおむね金賞4:銀賞4:銅賞2という割合です。

つまり、金賞を獲得できるのは、各部門や前半・後半の部において、原則として上位約4割の団体という仕組みです。

例えば15団体が出場する場合、金賞6団体、銀賞6団体、銅賞3団体という配分が考えられます。

これまでの全国大会とは、賞の決め方がかなり違うのです。

2024〜2025年は、80%以上なら金賞だった

では、それ以前はどうだったのでしょうか。

2024年と2025年の全国大会では、A・B・Cによる3段階評価が採用されていました。

課題曲と自由曲をそれぞれ評価し、Aを3点、Bを2点、Cを1点に換算。

その合計得点の満点に対する割合で、賞を決定していました。

得点率賞
80%以上金賞
60%以上80%未満銀賞
60%未満銅賞

この方式では、金賞や銀賞の団体数に制限はありませんでした。

ただし、審査員が付けられるA・B・Cの個数には、あらかじめ制約が設けられていました。

つまり、単純に全団体へ自由にA評価を付けられたわけではありません。

そして2026年には再び方式を変更。

A・B・C評価を廃止し、技術・表現の10段階評価と、得点順による賞の判定に移行したのです。

こうして見ると、金賞という同じ名前の賞でも、年度によって決まり方が違うことがわかります。

2026年の全国大会では、101団体中40団体が金賞

では、実際に2026年の全国大会ではどうなったのでしょうか。

全4部門の公式結果を集計すると、次のとおりです。

賞団体数
金賞40団体
銀賞40団体
銅賞21団体
合計101団体

金賞は全体の約39.6%。

実際に、おおむね4:4:2という基準に沿った結果となっています。

ただし、全国大会で金賞を取ったからといって、全国で1位という意味ではありません。

同じ部門でも前半・後半に分かれて審査する場合があり、複数の団体が金賞を受賞します。

金賞は、その大会で定められた審査方法によって授与される賞なのです。

また、地区大会や都道府県大会、支部大会では、全国大会と異なる審査方法が採用される場合があります。

つまり、同じ「金賞」という言葉でも、大会ごとに評価方法が必ずしも統一されているわけではありません。

「朝イチは不利」という噂、本当だった?

さて、ここからは少し刺激的な話です。

吹奏楽コンクールには昔から、こんな噂があります。

「朝一番に演奏する団体は不利」

審査員の耳がまだ慣れていないから。

前に比較する演奏がないから。

朝早くから準備しなければならないから。

いろいろな理由が語られてきました。

でも、実際にデータで確かめた人がいるのです。

2021年に学術誌『応用経済学研究』で発表された、松山博幸による論文《審査のゆがみ:全日本吹奏楽コンクールを例に》。

この研究では、1996〜2018年の全国大会の審査結果を使い、演奏順が評価に影響しているかを統計的に分析しています。

その結果は、なかなか衝撃的でした。

演奏順が後ろになるほど、高い評価を得やすい傾向が確認されたのです。

研究では、地域などの違いを考慮した統計モデルを使用。

分析の一例では、演奏順がひとつ後ろになると金賞受賞確率が約1.8ポイント上昇するという推定結果が得られました。

15団体が出場する場合、最初と最後の演奏順では、推計上の金賞受賞確率に約25ポイントの差が生じる計算になります。

もちろん、これは過去のデータに基づく統計的な推定であり、現在の審査方式でも同じ差が出ると確認されたわけではありません。

それでも、吹奏楽界で語られてきた「朝イチは不利」という噂には、数字で検証できる側面があったのです。

しかも、直前に演奏した団体にも影響される?

この論文では、もうひとつ興味深い問題を調べています。

それが、直前に演奏した団体の影響です。

例えば、非常に優れた演奏の直後に登場した団体。

あるいは、演奏があまりうまくいかなかった団体の次に登場した団体。

同じ演奏であっても、直前に何を聴いたかによって印象が変わる可能性があります。

研究では、こうした直前の演奏から受ける影響についても分析されています。

これは音楽コンクールに限らず、人間が複数のものを連続して評価するときに生じ得る問題です。

審査員が意図していなくても、前に聴いた演奏が次の評価に影響することがある。

そう考えると、演奏順の重要性が少し違って見えてきます。

ただし、この研究だけで、特定の大会や審査員が不適切な判断をしたと断定できるわけではありません。

あくまで過去の審査結果に見られた統計的な傾向です。

それでも、朝イチで金賞を取る学校はある

ここで、2026年の全国大会結果を見てみましょう。

中学生の部・前半の部で、出演順1番だった大阪市立堀江中学校は金賞。

高等学校の部・前半の部でも、出演順1番の東海大学菅生高等学校が金賞を受賞しています。

職場・一般の部では、前半の部1番の大津シンフォニックバンドも金賞でした。

つまり、朝一番に演奏したから金賞が取れないというわけではありません。

演奏順による影響が統計的に存在するとしても、個々の団体の結果がそれだけで決まるわけではないのです。

また、2026年には採点方法そのものが変更されているため、過去の研究結果が現在の制度にどの程度当てはまるかは、改めて検証する必要があります。

そもそも、音楽を点数で評価できるのか?

ここまで調べてきて、最後に残るのがこの疑問です。

音楽の演奏は、スポーツのように勝敗が数字だけで決まるものではありません。

もちろん、音程やリズム、アンサンブルの精度など、演奏技術として評価できる要素はあります。

しかし、音楽表現には、聴き手の価値判断が関わります。

同じ演奏を聴いても、ある審査員は音色を高く評価し、別の審査員はフレーズの作り方を重視するかもしれません。

だからこそ、複数の専門家がそれぞれ評価し、一定のルールで集計する仕組みが必要になるのでしょう。

それでも、人間が判断する以上、完全に機械的な評価にはなりません。

2026年から導入された技術・表現の10段階評価も、音楽のすべてを数字に置き換えられるという意味ではありません。

演奏を評価するための、ひとつの仕組みなのです。

結局、金賞は審査員の好みで決まっているのか?

今回、公式の審査規定や過去の研究を調べてみると、いくつか興味深い事実が見えてきました。

まず、全国大会では原則9人の審査員が演奏を評価しています。

そして2026年からは、課題曲と自由曲の技術・表現をそれぞれ10点満点で評価し、合計得点の高い順に賞を決める方式に変更されました。

一方、演奏順が審査結果に影響している可能性を示した学術研究も存在します。

つまり、コンクールの審査は単なる審査員の好き嫌いだけで決まるものではありませんが、人間の判断が関わる以上、評価の違いや意図しない偏りが生じる可能性もあるのです。

金賞は審査員の好みだけで決まるわけではない。でも、その審査が完全に数字だけで割り切れるわけでもない。

そして、コンクールの金賞を理解するうえでは、演奏そのものだけでなく、その年の審査方法を知ることも大切なのかもしれません。


主な参考資料

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