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吹奏楽部の顧問はブラック?「経験者だから」で任される先生の実態

学校の先生が新しい職場に赴任しました。

「先生、昔は吹奏楽部だったんですよね?」

「はい、高校でトランペットを吹いていました」

「じゃあ、吹奏楽部の顧問をお願いします!」

……ちょっと待ってください。

「吹奏楽をやっていたら、顧問をやらなきゃいけないの?」

吹奏楽部の顧問といえば、合奏を指導し、コンクールに向けて部員を育てる先生。

でも、実際の仕事はそれだけではありません。

朝練、放課後、休日の練習。コンクールの申し込みに楽器の運搬。部費の管理に保護者対応。

しかも、休日に出勤しても、支払われる手当は数千円という場合があります。

「もしかして、吹奏楽部の顧問って相当ブラックなのでは?」

今回は、学校の部活動顧問が決まる仕組みから、実際の勤務時間、給料、部費、保護者との関係まで調べてみました。

すると、音楽が好きな先生ほど大変な仕事を抱えやすい、ちょっと不思議な仕組みが見えてきました。

目次

そもそも、部活動の顧問は誰が決めている?

最初に気になるのが、部活動顧問の決め方です。

学校の先生は、自分が好きな部活動を自由に選べるのでしょうか。

実は、そうとは限りません。

公立学校では、部活動の顧問は学校の校務分掌のひとつとして、校長が担当を決定することがあります。

校務分掌とは、授業以外にもある学校の仕事を、先生たちで分担する仕組みです。

例えば、生徒指導、進路指導、学校行事の運営など。

部活動の顧問も、そのひとつとして扱われる場合があります。

長野県教育委員会は2024年、顧問の職務命令について、勤務時間内であれば校長が命じることは可能だと説明しています。

ただし、勤務時間外の部活動については、職務命令を出すことはできないという見解です。

つまり、部活動の顧問になることと、休日まで無制限に指導させられることは別なのです。

また、国の方針では、校長が顧問を決める際には、本人の意向やほかの業務とのバランスを考慮するよう求めています。

では、実際の学校ではどうなっているのでしょうか。

吹奏楽部の顧問、28.4%は「やりたくなかった」

ここで、なかなか面白い研究があります。

2017年に『音楽教育実践ジャーナル』で発表された、西島央氏による部活動の調査研究です。

この研究では、3県の中学校教員を対象にした調査データから、顧問を引き受けた経緯などを分析しています。

その結果が、こちらです。

顧問になった経緯吹奏楽部顧問
自分から希望した43.2%
本当は別の部を希望していた4.5%
どの部でもよかった23.9%
顧問をしたくなかった28.4%

なんと、吹奏楽部顧問の約3割が、そもそも顧問をしたくなかったと回答していたのです。

さらに、現在担当する部活動の種目について、経験がないと回答した吹奏楽部顧問は34.4%。

つまり、吹奏楽部の顧問だからといって、全員が吹奏楽経験者というわけでもありません。

※この数字は2017年発表の研究に使われた地域限定の調査結果です。現在の全国平均を示すものではありません。

吹奏楽経験があるから顧問にされる先生もいれば、経験がないのに顧問になった先生もいる。

どちらにしても、必ずしも本人の希望だけで決まっているわけではなさそうです。

「音楽の先生だから」が、最強の任命理由?

さらに興味深いのが、音楽科教員の事情です。

2024年11月、『東洋経済education×ICT』は、公立中学校に勤務する音楽科教員の体験を紹介しました。

取材に応じた教員は、音楽科の先生という理由で、赴任先の吹奏楽部の主顧問を任されてきたといいます。

問題は、その先生が吹奏楽の指導を希望していたわけではないこと。

音楽科教員だからといって、必ずしも吹奏楽の指導が得意とは限りません。

ピアノや声楽を専門に学んできた先生もいます。

ところが学校では、

「音楽の先生なんだから」

という理由で、吹奏楽部の指導まで期待されることがあります。

しかも、同じ学校に音楽科教員が何人もいるとは限りません。

実際、取材を受けた先生は、音楽科教員が基本的に1校に1人という環境について語っています。

音楽の授業も担当する。

校歌の伴奏や指導もする。

そして吹奏楽部の主顧問もする。

「音楽のことなら全部できるでしょ?」

そんな雰囲気で、仕事が集まってしまうのです。

休日に指導しても、手当はたった数千円?

さて、ここからはお金の話です。

学校の先生が土曜日や日曜日に部活動を指導すると、いくらもらえるのでしょうか。

公立学校では、休日などの部活動指導に対して「教員特殊業務手当」が支給される場合があります。

ただし、これは民間企業の残業代と同じ仕組みではありません。

支給条件や金額は自治体によって異なります。

例えば大阪市では、2026年4月から部活動指導などに対する手当が改定されました。

休日等の指導時間大阪市の手当額
2時間以上3時間未満2,600円
3時間以上3,900円

従来は4時間以上で3,600円でしたが、支給条件や金額が変更されたのです。

では、3時間で3,900円なら、時給はいくらでしょうか。

単純に割れば、1時間あたり1,300円。

仮に5時間指導しても同じ3,900円の支給であれば、1時間あたり780円相当になります。

もちろん、これは手当だけを活動時間で割った数字であり、教員の正式な時給ではありません。

しかし、休日を使って何時間も部活動を指導する先生にとって、十分な金額と感じられるかは別問題です。

しかも、顧問の仕事は練習時間だけでは終わりません。

大会の準備や保護者への連絡など、見えにくい業務も存在します。

平日の部活動は、残業代が出ないの?

もうひとつ気になるのが、平日の部活動です。

授業が終わったあとに合奏を始め、夕方まで指導する。

その時間が先生の勤務時間を超えた場合、どうなるのでしょうか。

公立学校の教員には、一般的な会社員とは異なる給与制度が適用されています。

原則として、通常の時間外勤務に対する残業手当が支給される仕組みではありません。

実際、千葉市は部活動改革に関する公式資料で、定められた勤務時間を過ぎて平日の部活動を指導しても、追加の報酬が出ない状況を説明しています。

もちろん、勤務時間の割り振りを変更したり、休日の勤務を振り替えたりする制度はあります。

しかし、通常の残業のように、働いた時間に応じて報酬が増えていくわけではありません。

これでは、部活動の指導時間が長くなっても、手取りがそれに比例して増えるとは限らないのです。

他の部活動と比べて、吹奏楽部は本当に大変?

では、吹奏楽部の顧問は、ほかの部活動の顧問より大変なのでしょうか。

ここで参考になるのが、文化庁が2018年に公表した資料です。

2016年度の教員勤務実態調査をもとに、中学校の部活動ごとの指導時間を比較しています。

部活動平日の1日あたり休日の1日あたり
バレーボール43分3時間17分
野球50分3時間13分
サッカー50分3時間6分
バスケットボール47分2時間54分
吹奏楽47分2時間42分
美術29分11分
その他文化系26分32分

吹奏楽部の顧問は、休日に平均2時間42分活動していました。

野球部やサッカー部などより短いものの、ほかの文化部と比べるとかなり長い時間です。

つまり、吹奏楽部は文化部だから楽というわけではありません。

一方で、運動部を含めて最も活動時間が長いというわけでもありません。

「文化部なのに体育会系」という印象には、実際の活動時間にも表れている部分があるのです。

ただし、この数字は2016年度の調査結果であり、現在の活動時間を示すものではありません。

吹奏楽部の顧問は、指揮だけしていればいいわけじゃない

ここまで見てきたのは、主に練習時間の話です。

しかし、吹奏楽部の顧問には、ほかの仕事もあります。

例えば、コンクールに出場する場合。

申込書を提出し、出演者を確認し、バスやトラックを手配します。

演奏会を開催するなら、会場予約、プログラム作成、チケット、舞台スタッフとの打ち合わせなども必要です。

さらに、学校の楽器の管理や修理依頼、楽譜の購入、外部講師の手配もあります。

もちろん、これらすべてを顧問ひとりが担当するとは限りません。

学校事務職員や保護者、外部スタッフなどが分担する場合もあります。

それでも、実際に顧問が多くの業務を背負っているケースはあります。

先ほど紹介した音楽科教員も、練習計画、会計、部員同士のトラブル対応、保護者との連絡などに時間を取られていると語っています。

指揮を振るだけのつもりが、気づけば楽団の事務局長。

吹奏楽部の顧問には、そんな側面もあるのです。

しかも、部費の管理まで顧問の仕事?

ここで、さらに現実的なお金の話をしましょう。

吹奏楽部の活動には、いろいろな費用がかかります。

実際の部費会計を見てみると、その大変さがよくわかります。

奈良県の王寺北義務教育学校は、2025年度の吹奏楽部の会計報告を公開しています。

その内容を見てみましょう。

支出項目金額
楽譜代57,442円
消耗品代(リードなど)86,513円
スプリングコンサートのトラック代55,000円
マーチングの体育館使用料など41,440円
定期演奏会の費用61,829円
その他50,122円
支出合計352,346円

この学校では、年間35万円以上のお金が吹奏楽部の活動に使われていました。

さらに、収入は38万2,020円。

そのうち、保護者などから集める部費は23万1,000円でした。

もちろん、これは一校の事例です。

全国の吹奏楽部の平均ではありませんし、活動規模によって費用は大きく変わります。

それでも、楽譜代だけで5万円以上、消耗品代で8万円以上。

さらにトラックや演奏会の費用まで必要になることがわかります。

顧問は、このような予算の執行や会計報告に関わる場合もあるわけです。

吹奏楽部の顧問は、部費の金額にも悩んでいた

この問題については、さらに興味深い研究があります。

先ほど紹介した西島央氏の2017年の研究です。

調査では、顧問が部活動を運営するうえで何に困っているのかも調べています。

すると、次のような結果が出ました。

困っていること吹奏楽部顧問
活動に必要な部員が集まらない74.4%
部の運営費用が足りない65.2%
顧問の仕事の時間や量が負担53.4%

特に注目したいのは、お金の問題です。

部の運営費用が足りないと答えた割合は、顧問全体では27.3%。

それに対して、吹奏楽部顧問では65.2%でした。

なんと2倍以上です。

また、大会会場への移動費用についても、吹奏楽部顧問はほかの顧問より困っている割合が高くなっていました。

これは吹奏楽ならではの事情でしょう。

野球ならバットやグローブ、サッカーならボールを運びます。

でも吹奏楽では、ティンパニやマリンバ、コントラバスなど、大きな楽器まで運搬しなければならない場合があります。

部員だけでなく、楽器の移動にも費用がかかるのです。

顧問は音楽の指導者であると同時に、予算と向き合う運営担当者にもなっています。

保護者との関係も、なかなか大変らしい

さらに厄介なのが、保護者との関係です。

吹奏楽部の活動には、保護者の協力が欠かせない場合があります。

楽器運搬、演奏会の運営、遠征費用、部費の負担。

そのため、保護者と顧問の関係も密接になりやすいのです。

もちろん、保護者の協力は大きな支えになります。

しかし、活動方針をめぐって意見が対立することもあります。

2024年の『東洋経済education×ICT』の記事では、顧問が国のガイドラインに沿って練習時間を減らしたところ、部員や保護者、さらに校長からも反発されたという体験が紹介されています。

これは、なかなか厳しい話です。

長時間労働を減らすための国の方針に従ったのに、周囲から不満が出る。

それまでの練習量を維持してほしい。

コンクールで良い結果を出してほしい。

こうした期待が大きいほど、顧問は活動時間を減らしにくくなるのでしょう。

先生は働き方を改善したい。でも、保護者はもっと練習してほしい。

吹奏楽部の顧問は、そんな板挟みになることもあるのです。

じゃあ、外部指導者を呼べば解決するのでは?

ここまで読むと、ひとつの疑問が浮かびます。

「そんなに大変なら、学校の先生が全部やらなくてもいいのでは?」

実際、そのための仕組みも整備されています。

2017年には、学校教育法施行規則の改正によって「部活動指導員」という制度が設けられました。

部活動指導員は、学校の教員に代わって、専門的な指導や大会への引率などを担当できる職員です。

単に時々指導に来る外部講師とは異なり、学校の規則に基づいて顧問を務めることもできます。

2024年、RKB毎日放送は福岡県行橋市の中学校吹奏楽部を取材しました。

そこでは外部指導員が演奏指導をサポートしており、顧問の先生たちは大きな助けになっていると語っています。

先生が授業や学校業務をしている間にも、専門的な指導を任せられる。

これは非常に大きなメリットです。

しかし、問題はそこからです。

そもそも、吹奏楽を教えられる人が足りない

吹奏楽部の指導者には、音楽の知識だけでなく、さまざまな楽器や合奏についての理解が求められます。

さらに、平日の放課後や休日に指導できる人材が必要です。

演奏経験があっても、その時間に指導できるとは限りません。

また、地域クラブとして活動するなら、報酬や活動場所、楽器の管理まで考える必要があります。

こうした問題は、実際に国会でも議論されています。

2026年3月4日の衆議院文部科学委員会では、吹奏楽部の地域展開に関する課題として、楽器の購入、保管場所、練習場所、運搬費用などが取り上げられました。

文部科学大臣も、全日本吹奏楽連盟から財源確保や学校施設の利用、教員の兼職兼業について要望を受けていることを説明しています。

つまり、顧問を学校の先生から外部の指導者に交代すれば、すべて解決するわけではありません。

指導できる人を見つけ、その人に適切な報酬を支払い、活動を続けられる仕組みが必要なのです。

実は、部活動の顧問をやりたい先生もいる

ここまで顧問の負担ばかり紹介してきましたが、忘れてはいけないことがあります。

吹奏楽部の指導を、自分から希望している先生もいるのです。

2017年の研究では、吹奏楽部顧問の43.2%が、自分から希望して顧問になったと回答していました。

音楽が好きで、生徒たちと一緒に演奏を作りたい。

指導者として成長したい。

コンクールや演奏会を通じて、生徒の成長を見守りたい。

そうした思いで顧問を務めている先生もいます。

実際、吹奏楽部の指導を人生の大きな仕事として取り組んでいる先生たちがいるからこそ、日本の学校吹奏楽は発展してきたのでしょう。

ただし、やりがいを感じている先生がいることと、誰もが同じ仕事を引き受けられることは別です。

音楽が好きな先生もいれば、授業に専念したい先生もいます。

自分から顧問を希望する人もいれば、そうではない人もいます。

そして、吹奏楽の指導を楽しんでいる先生であっても、事務作業や会計、保護者対応まで無制限に引き受けたいとは限らないのです。

2026年、顧問の仕事は変わり始めている

現在、学校部活動の仕組みは大きな転換期にあります。

2025年12月、文部科学省は新しい部活動改革のガイドラインを策定しました。

2026年度から2031年度までの6年間を「改革実行期間」とし、特に休日の学校部活動について、地域クラブ活動への展開を進める方針です。

この改革によって、学校の先生だけに頼る部活動から、地域で活動を支える仕組みへと変えていこうとしています。

ただし、地域展開には課題もあります。

学校の楽器を誰が管理するのか。

練習場所をどう確保するのか。

指導者にいくら報酬を支払うのか。

部費や保護者負担はどう変わるのか。

特に吹奏楽は、高価な楽器や設備が必要な活動です。

単純に練習場所を学校から外へ移せば済むものではありません。

それでも、先生の熱意だけで支えてきた部活動を、社会全体でどう運営するのか。

その仕組みを考え直す時期が来ているのです。

結局、吹奏楽部の顧問はブラックなのか?

今回、部活動顧問の制度や給与、実際の調査データを調べてみると、少し不思議な実態が見えてきました。

学校の先生は、本人が希望していなくても、勤務時間内の校務として部活動の顧問を任される場合があります。

しかも吹奏楽部の場合は、演奏指導だけではありません。

楽器の管理、コンクールの準備、部費の会計、保護者対応など、実に多くの仕事が存在します。

そして、休日まで指導しても、手当は数千円という自治体もあります。

一方で、吹奏楽の指導を自ら希望し、生徒たちとの音楽づくりを楽しんでいる先生もいます。

では、何が問題なのでしょうか。

それは、先生の音楽への情熱や経験に、あまりにも多くの仕事を頼ってきたことなのかもしれません。

「吹奏楽経験があるから、顧問をお願いします」

そこまでは、まだわかります。

でも、その一言で、休日の練習も、楽器の管理も、部費の会計も、保護者対応も、全部お願いしますとなったら。

さすがに、話が違うのではないでしょうか。

吹奏楽部の顧問は、決してブラックな人というわけではありません。

ブラックなのは、顧問の先生の熱意に頼りすぎてきた、部活動の運営の仕組みなのかもしれません。


主な参考資料

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