全日本吹奏楽コンクールには、かつて「課題曲Ⅴ」という作品が設けられていました。
課題曲Ⅰ〜Ⅳとは選択できる部門が異なり、現代的な作曲技法や高度な演奏技術を必要とする作品も数多く採用されてきました。
2003年度の登場から2009年度の制度変更、2022年度の廃止まで、全日本吹奏楽連盟の公式資料をもとに課題曲Ⅴの歴史をたどります。
吹奏楽コンクールの課題曲Ⅴとは?
課題曲Ⅴとは、2003年度から2022年度まで設けられていた全日本吹奏楽コンクールの5番目の課題曲です。
当初は大学・職場・一般の部のみが選択でき、2009年度から高等学校の部にも対象が広がりました。若手邦人作曲家の発掘を目的とした公募が行われ、2022年度を最後に廃止されました。
課題曲Ⅴが登場したのは2003年度
課題曲Ⅴが初めて設けられたのは、2003年度の第51回全日本吹奏楽コンクールです。
2002年度までは4作品だった課題曲が、2003年度にはⅠ〜Ⅴの5作品となりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 初登場 | 2003年度・第51回大会 |
| 最終年度 | 2022年度・第70回大会 |
| 2003〜2008年度 | 大学・職場・一般の部が選択可能 |
| 2009〜2022年度 | 高等学校・大学・職場一般の部が選択可能 |
| 2009年度からの選考 | 全日本吹奏楽連盟作曲コンクール第1位作品を採用 |
| 廃止後 | 2023年度から課題曲Ⅰ〜Ⅳの4作品 |
なお、2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で全国大会が中止され、同年度の課題曲は2021年度へ引き継がれました。
課題曲Ⅴはなぜ難しいと言われた?
課題曲Ⅴには、現代的な響きや複雑なリズム、細かな音型などを取り入れた作品が採用されてきました。
演奏技術だけでなく、各声部の音色やバランス、楽曲の構造を理解した表現も求められる作品が多く見られます。
一方で、2003年度の《マーチ「列車で行こう」》のように、課題曲Ⅴであってもマーチ形式の作品が存在します。
中学校を含む各部門が、年度ごとの演奏規定に従って選択できる課題曲。
大学・職場・一般、2009年度以降は高校も選択可能。技術的に高度な作品も採用された。
課題曲Ⅴがすべて同じ難易度だったわけではない
課題曲Ⅴという番号だけで、作品の形式や演奏難易度が一律に決まるものではありません。
それぞれの作品の具体的な特徴や演奏上の難しさは、個別に確認する必要があります。
課題曲Ⅴを演奏できたのはどの部門?
課題曲Ⅴは、すべての部門が選択できたわけではありません。
2003〜2008年度は大学・職場・一般の部のみが選択でき、2009年度から高等学校の部にも選択が認められました。
| 部門 | 2003〜2008年度 | 2009〜2022年度 |
|---|---|---|
| 中学校 | 選択不可 | 選択不可 |
| 高等学校 | 選択不可 | 選択可能 |
| 大学 | 選択可能 | 選択可能 |
| 職場・一般 | 選択可能 | 選択可能 |
このように、2009年度は課題曲Ⅴの歴史における重要な転換点となっています。
2009年度に課題曲Ⅴの制度が変わった
2009年度から、課題曲Ⅴの選考には「全日本吹奏楽連盟作曲コンクール」が関わるようになりました。
この作曲コンクールは、全日本吹奏楽連盟創立70周年を記念した取り組みで、若手邦人作曲家の発掘を目的として設けられたものです。
作曲コンクールの第1位入賞作品が、翌年度の全日本吹奏楽コンクール課題曲Ⅴとして採用される仕組みが運用されました。
第51回大会から5曲体制となる。
大学・職場・一般の部のみが選択できる制度で運用された最後の年。
高校の部でも課題曲Ⅴを選択できるようになる。
同年度の課題曲Ⅴは2021年度へ引き継がれる。
この年度をもって制度が終了。
課題曲Ⅰ〜Ⅳから1作品を選ぶ方式になる。
課題曲Ⅴにはどんな作品があった?
課題曲Ⅴには、マーチから現代的な作曲技法を取り入れた作品まで、さまざまな楽曲が採用されています。
ここでは、課題曲Ⅴの歴史の中から代表的な年度の作品を紹介します。
| 年度 | 課題曲Ⅴ | 作曲者 |
|---|---|---|
| 2003年 | マーチ「列車で行こう」 | 川村昌樹 |
| 2004年 | サード | 田渕浩二 |
| 2008年 | 火の断章 | 井澗昌樹 |
| 2009年 | 躍動する魂 ~吹奏楽のための | 江原大介 |
| 2012年 | 香り立つ刹那 | 長生淳 |
| 2014年 | きみは林檎の樹を植える | 谷地村博人 |
| 2017年 | メタモルフォーゼ ~吹奏楽のために~ | 川合清裕 |
| 2022年 | 憂いの記憶 ―吹奏楽のための | 前川保 |
2009年度の《躍動する魂 ~吹奏楽のための》は、第1回全日本吹奏楽連盟作曲コンクールの第1位作品です。
また、2022年度の《憂いの記憶 ―吹奏楽のための》は、第13回同作曲コンクールの第1位作品として、最後の課題曲Ⅴに選ばれました。
作品一覧について
上の表は、課題曲Ⅴの変遷を示すために一部の作品を抜粋したものです。すべての年度の作品を掲載した一覧ではありません。
2020年度の課題曲Ⅴはどうなった?
2020年度の第68回全日本吹奏楽コンクールは、新型コロナウイルス感染症の影響によって中止されました。
この年に用意されていた課題曲は翌2021年度へ引き継がれ、課題曲Ⅴも同じ作品が採用されました。
そのため、2020年度に新たな全国大会が開催されたわけではありませんが、課題曲Ⅴの制度そのものがこの年に廃止されたわけではありません。
課題曲Ⅴはなぜ廃止された?
全日本吹奏楽連盟は、課題曲Ⅴを2022年度をもって終了することを決定しました。
廃止理由は、連盟が公表した「課題曲Ⅴの廃止と、それに伴う、全日本吹奏楽連盟作曲コンクールの公募停止について」という文書に明記されています。
連盟は、若手邦人作曲家の発掘という目的について、日本人作曲家の作品が増え、吹奏楽コンクールなどで演奏される機会も増加したことから、当初の目的を十分に達成できたと判断したと説明しています。
全日本吹奏楽連盟が示した廃止理由
若手邦人作曲家の発掘という当初の目的が十分に達成されたと判断されたため、課題曲Ⅴは2022年度をもって終了しました。
この決定に伴い、全日本吹奏楽連盟作曲コンクールの公募も停止されました。
難しすぎたから廃止された?
課題曲Ⅴには難度の高い作品がありましたが、全日本吹奏楽連盟が公表した廃止理由は、若手邦人作曲家の発掘という目的を達成したことです。
「難しすぎたから廃止された」と断定することは、公式発表の内容とは異なります。
全日本吹奏楽連盟作曲コンクールも終了
課題曲Ⅴの廃止とともに、全日本吹奏楽連盟作曲コンクールも終了しました。
同作曲コンクールでは、第1位入賞作品を課題曲Ⅴとする取り決めが設けられていました。
課題曲Ⅴがなくなることで、その取り決めを実施できなくなるため、作曲コンクールの公募も停止されたのです。
ただし、課題曲Ⅴ以外の課題曲公募まで廃止されたわけではありません。
全日本吹奏楽連盟は、課題曲Ⅴ以外の公募は継続することも発表しています。
2023年度から課題曲は4作品に
2022年度を最後に課題曲Ⅴが廃止され、2023年度からは課題曲Ⅰ〜Ⅳの4作品となりました。
2026年度も課題曲は4作品で、全日本吹奏楽コンクールでは各年度の実施規定に従ってその中から1曲を選択します。
5作品。課題曲Ⅴには部門による選択制限があった。
4作品。課題曲Ⅴは設けられていない。
課題曲Ⅴの歴史はどこで調べられる?
課題曲Ⅴの廃止とその理由については、全日本吹奏楽連盟が公開している公式文書で確認できます。
歴代の作品名や作曲者については、全日本吹奏楽連盟の課題曲資料や、東京佼成ウインドオーケストラの「課題曲コンサート2022」の記録などが参考になります。
資料の確認範囲について
この記事では、課題曲Ⅴの主な制度変更、代表的な作品、公式に発表された廃止理由を中心に紹介しています。
すべての年度の課題曲Ⅴについて、演奏時間・編成・難易度・全国大会での選択団体数を網羅したものではありません。
出典・参考資料
全日本吹奏楽連盟の公式文書と加盟連盟の当時の大会記録を中心に参照しました。
資料確認:2026年10月29日